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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)1416号 判決 1969年9月29日

理由

一、控訴人がその主張の本件為替手形一通を所持していること、被控訴人が拒絶証書作成義務を免除のうえ右為替手形に裏書したこと、控訴人が満期に支払場所に右為替手形を呈示したが支払を拒絶されたことは、いずれも当事者間に争いがない。なお、右為替手形の支払地の記載は、広く流通移転する手形の権利行使について履行場所発見の便益に供するという手形の機能から考えると、その記載は行政区画の名称それ自体を表示しなくても、独立の最少行政区画たる地域を推知させる記載があれば足りると解すべきところ、本件為替手形の支払地は「奈良県」とだけ記載されているが、その支払場所は「株式会社南都銀行川西支店」と記載されていること(この点は当事者間に争いがない)から考えれば、右支払地は奈良県磯城郡川西村であると認めることができるから、右支払地の記載は適法であるというべきである。

二、そこで、被控訴人主張の本件為替手形の悪意取得の抗弁について判断するに、被控訴人の立証はもちろん本件の全証拠によるもこれを認めるに足る証拠はないから、右抗弁は失当として排斥するのほかない。

三、次に、被控訴人主張の約束手形金債権による相殺の抗弁について考えてみる。被控訴人がその主張の約束手形一通を所持していることは当事者間に争いがなく、《証拠》ならびに弁論の全趣旨を合わせ考えれば、控訴人は被控訴人主張の約束手形に拒絶証書作書作成義務を免除のうえ白地式により裏書したこと、その後被控訴人は右手形を訴外浪速信用金庫に裏書譲渡し、同金庫において右手形を支払期日に支払場所に呈示したが、支払を拒絶されたので被控訴人が右手形を受け戻したこと、および被控訴人が昭和四一年一月一四日の本件原審口頭弁論期日において控訴人に対し被控訴人主張の相殺の意思表示をしたことが認められる。もつとも、《証拠》によれば、控訴人の主張するように訴外橋本郁士(控訴人の子)が控訴人の名義を冒用して右約束手形の裏書を偽造したようにうかがえる部分があるけれども、この部分は他方、右控訴本人の供述によれば、控訴人名の記載およびその名下の印影がそれぞれ控訴人の記名印および印章によるものであることが認められることに加えて、原審および当審における被控訴本人の供述ならびに弁論の全趣旨によれば、右約束手形は被控訴人が控訴人方で控訴人より直接交付をうけたことが認められることと対比して、たやすく採りがたく、そのほかに右認定を妨げる証拠はない。それゆえ、右約束手形の控訴人名義の裏書部分は、控訴人が被控訴人に対し裏書したものと認めるのが相当である。以上の事実によれば、本件為替手形金五〇万円とこれに対する満期である昭和四〇年一〇月二五日から支払ずみに至るまで手形法定利率の年六分の割合による利息の債権は、昭和四一年一月一四日被控訴人の控訴人に対して有する右約束手形金債権と対当額において、相殺されたものというべきである。

四、よつて、控訴人が被控訴人に対し本件為替手形金の支払を求める本訴請求を、失当として棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却

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